脊髄刺激療法(SCS)
麻酔科・ペインクリニック外科 痛み治療センター長 西池聡
微弱電流で難治性の痛みをやわらげる
脊髄刺激療法(SCS)は、脊髄に微弱な電気刺激を流すことで、慢性的な難治性疼痛をやわらげる治療法です。脊椎手術後や脊椎管狭窄症の痛み、複合性疼痛症候群、帯状疱疹後神経痛など、薬を使っても十分に取れない痛みや痺れに効果的です。
50~70%痛みを軽減することが目標で、鎮痛剤の使用量が減ったり、睡眠時間が増えたりと、QOLの向上が期待できます。
硬膜外腔にリードを置くので神経を傷つけることがなく、可逆的といいますが、手術前の状態に戻すことも可能です。
2014年からSCSを始めて、これまでの植え込み件数は500例弱、現在は年間80~90例で推移しています(2022年5月現在)。
ご高齢の患者さんの痛みに寄り添う
整形外科では手術によって機能の改善を目指しますが、たとえ機能を治しても痛みが残ってしまう場合があります。「腰の手術をしたけれども痛みが消えない」「膝の手術をしたけれどもまだ痛い」というように、痛みは単純ではないんですね。
SCSの対象となるのは術後だけではありません。私が一番向いていると思うのはご高齢の患者さんです。変形具合が強く、悪いところが複数にわたり、ほかにも疾患があって、手術の適応にならないような患者さんにこそ、SCSをおすすめしています。
幸い当院はSCSに対して理解のある先生が多く、整形外科や循環器内科を受診した患者さんがペインを受診するケースがよくあります。
たとえば脊椎の先生から「手術を選択する前にSCSで様子をみた方がいいよね」といってカルテが回ってきたり、循環器内科の先生から「高齢で現状はカテーテル治療が難しいので、まずはSCSで痛みを軽減している間に血管を拡張しましょう」といってこちらに送られてくることもあります。
このようにペインクリニック外来を含む3科連携によって、さまざまな治療法の中から的確な治療を選択できるのも、釧路三慈会ならではといえるでしょう。
脊髄刺激療法(SCS)を日本中に広めたい
一時期に比べて、近年は特に若い医師の間でSCSを導入するケースが増えてきています。背景にあるのは電極をはじめとする医療機器の進化と、手技の標準化です。私自身も、オペ見学を受け入れたり、インストラクターをしたり、医療機器メーカーの動画制作に協力したりしています。
医師の技術レベルにかかわらず、同じようにやって同じような効果が得られるのであれば、SCSを取り入れる施設も増えるはずです。
かつてペースメーカーが一般化したように、SCSも一般的になれば、痛みから解放される患者さんがもっと増えるはずです。そのために私自身も尽力できたらと考えております。
脊髄刺激療法とは
脊髄刺激療法は、脊髄に微弱な電気刺激を流すことにより、慢性の痛みを和らげる治療です。
脊髄に微弱な電気が流れることによって得られる刺激感が、痛みのある部分に重なることで痛みが和らぐと言われています。
海外では40年以上前から行われ、国内外で数多くの患者さまがこの治療を受けています。
脊髄刺激療法の流れ
体内に刺激装置を埋込む前に、脊髄刺激療法の効果判定を目的とした試験刺激(トライアル)があります。
トライアル時に効果があり、患者さまご自身が希望した場合に刺激装置を埋込みます(本埋込み)。
ご不明な点などがありましたら医師までお尋ねください。